「開業届」は、個人事業主の開業にあたって提出が必要な書類のひとつです。開業時はさまざまな手続きが必要となり、事務作業が煩雑になりがちです。開業届の概要や提出方法を事前に把握し、スムーズに手続きを進めたいと考えている人は多いでしょう。
そこでこの記事では、開業届の基礎知識をわかりやすく解説します。開業届を提出するメリット・デメリットや、ほかに提出が必要な書類も紹介するため、開業予定の人は最後までチェックしてみてください。
開業届とは?
開業届とは、個人事業主として事業を始めたことを、税務署に報告する届出です。サラリーマンであれば、毎月の給与から所得税が源泉徴収され、会社を通して税務署に納付されます。
しかし、個人事業主は、1年間の収入に対する所得税を自分自身で計算したうえで、確定申告する必要があります。開業届を提出することは、所得税を納付する意思をしっかり示す意味でも重要です。
開業届の提出義務は、所得税法によって定められています。下記は、所得税法第229条からの引用です。
(開業等の届出)
第二百二十九条 居住者又は非居住者は、国内において新たに不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業を開始し、又は当該事業に係る事務所、事業所その他これらに準ずるものを設け、若しくはこれらを移転し若しくは廃止した場合には、財務省令で定めるところにより、その旨その他必要な事項を記載した届出書を、その事実があつた日から一月以内に、税務署長に提出しなければならない。
開業届を提出していなくても、罰則などを受けることはありません。しかし、個人で新たな事業を始める場合や、フリーランスとして独立する場合は、事業規模などにかかわらず、開業届を提出することが望ましいと言えます。開業届が承認されることで、初めて個人事業主と認められます。継続的に事業を行うことが明らかである場合は、開業届を提出するほうがよいでしょう。
開業届の種類と提出方法
開業時に提出する書類には、「個人事業の開業・廃業等届出書」と「個人事業税の事業開始等申告書」の2種類があります。
それぞれの概要や提出方法などは、以下のとおりです。
個人事業の開業・廃業等届出書 | 個人事業税の事業開始等申告書 | |
---|---|---|
概要 | 税務署に事業の開始を報告するための届出書 ※事業所の新設や増設、移転なども提出が必要 |
都道府県税務署に事業の開始を報告するための届出書 |
関連する税金 | 所得税 | 個人事業税 |
提出方法 | 管轄の税務署に持参や郵送、電子申請により提出する | 管轄の都道府県税事務所に持参または郵送で提出する |
提出期限 | 開業日から1か月以内 | 都道府県ごとに設定されている |
それぞれの書類に、事業開始日やマイナンバー、職業などを記入して提出します。書類に直接記入する方法のほか、会計ソフトなどを使うことで書類は簡単に作成できるため、必要に応じて利用してみましょう。
なお、個人事業税の事業開始等申告書は、都道府県によって提出期限が違います。国税庁のホームページなどでも情報が掲載されているため、個人事業税の事業開始等申告書を出す場合はあらかじめ詳細を確認しておきましょう。
開業届を提出するメリット・デメリット
開業届の提出は、事業主にとってさまざまなメリットがあります。一方で、デメリットとなる場合もあるため、事前に注意点を押さえておくことが重要です。
開業届を提出するメリット・デメリットは、以下のとおりです。
メリット
- 青色申告ができるようになる
- 仕事専用の銀行口座・クレジットカードなどを作れる
- オフィス契約・融資の審査が通りやすくなる
開業届を提出することで、青色申告が可能となります。青色申告は、確定申告時に最大65万円の青色申告特別控除を受けられる制度です。青色申告をせず白色申告にする場合は、特別控除額が10万円であるため、青色申告には大きな節税効果があると言えます。なお、青色申告を行うためには、承認申請書の提出や専用の確定申告書類の使用が必要です。
また、仕事専用の銀行口座やクレジットカードを作れるというメリットもあります。開業届を出すことで、事業を行っている証明となるため、事業主を対象とした銀行口座やクレジットカードの申請が可能です。
さらに、オフィス賃貸や融資の審査にも通りやすくなります。個人事業主は、毎月の収入が安定しない分、公務員や会社員と比べると、審査の通過が難しい傾向です。開業届を提出することで社会的信用が大きくなるため、審査に通りやすくなります。
デメリット
- 失業手当がもらえない場合がある
- 健康保険の扶養から外れる恐れがある
開業届を提出すると、場合によっては失業給付が貰えなくなります。失業給付は、「失業者が次の仕事を探している期間」を補助するための制度です。したがって、開業届を提出した時点で失業給付の受給対象から外れます。開業後の事業展開や収入が未定の人は、特に注意してください。
また、配偶者の扶養に入っている場合、勤務先の条件によっては扶養対象から外れる可能性があります。収入が一定額未満の場合は扶養から外れないこともあるため、事前に配偶者の勤め先に確認しておくとよいでしょう。
開業届以外に提出が必要となる書類4つ
開業時は、開業届以外にも以下の4点の書類を提出する必要があります。
- 所得税の青色申告承認申請書
- 青色事業専従者給与に関する届出書
- 給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書
- 源泉所得税納期の特例の承認に関する申請書
ここでは、各書類の概要を詳しく解説します。
所得税の青色申告承認申請書
所得税の青色申告承認申請書とは、青色申告を行うために必要となる書類です。この申請書が受理されることで、確定申告時に青色申告が可能となります。
所得税の青色申告承認申請書の提出先は、管轄の税務署です。1月15日までに開業した場合は、その年の3月15日までに提出する必要があります。1月16日以降に開業した場合は、開業してから2か月以内が提出期限です。
青色事業専従者給与に関する届出書
青色事業専従者給与に関する届出書は、家族に支払っている給与を経費として認めてもらうために提出する書類です。個人事業を家族に手伝ってもらっている場合は、この書類を提出することで節税効果があります。
青色事業専従者給与に関する届出書の提出先・提出期限は、所得税の青色申告承認申請書と同じです。1月15日までに開業した場合は3月15日まで、1月16日以降に開業した場合は2か月以内に管轄の税務署へ提出する必要があります。
給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書
給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書は、従業員に給与支払いが発生する事務所を開設した際に提出します。ただし、開業届を提出してすでに個人事業を開始している場合は、提出の必要はありません。
給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書は、管轄の税務署に提出します。事務所移転の場合は、移転前の管轄税務署が提出先です。提出期限は、事実発生日から1か月以内となっています。
源泉所得税納期の特例の承認に関する申請書
源泉所得税納期の特例の承認に関する申請書は、所得税の納期に関して特例を受けるための書類です。所得税は原則として、徴収した月の翌月10日までに納付する必要があります。しかし、この申請書を提出すると、給与を支払う従業員が常時10人未満の場合、以下の2回を所得税の納期とすることが可能です。
- 1~6月分の給与から徴収した所得税:7月10日
- 7~12月分の給与から徴収した所得税:翌年1月10日
源泉所得税納期の特例の承認に関する申請書は、管轄の税務署が提出先となっており、提出期限は決められていません。ただし、申請書を提出した翌月分の給与から適用されます。
まとめ
開業届は、個人事業主が開業する際に提出する書類です。所得税法で提出義務が定められており、開業届が承認された時点で初めて個人事業主として認められます。
開業届を提出することで、「青色申告ができる」「仕事専用の銀行口座・クレジットカードなどを作れる」といったメリットがあります。一方で、「失業手当がもらえない場合がある」「健康保険の扶養から外れる恐れがある」などのデメリットもあるため、事前に把握しておきましょう。
また、所得税の青色申告承認申請書など、開業時はいくつかの申請書類があります。本記事の内容を参考に書類の概要を確認したうえで、必要な手続きや準備を進めてください。